鴨居が樹のいた工務店に転がり込んでから、ふた月が流れた。

「もしもし。あ、メグ。体の調子はどう?」

鴨居はメグの本名を知ってからもメグと呼び続けている。

それは真理恵と言う名前の悲しい過去を知ってしまったからではなく、ただ純粋に馴れ親しんだアダ名を呼んでいる気持ちだ。

「うん、まだそんなにお腹も大きくなってないし。調子も良いから未だに妊娠してるって実感ないや。」

そう言って笑うメグの声が電話ごしに聞こえるだけで、鴨居は仕事のつらさなど忘れられた。

「カモはどう?無理とかしてないよね。」

鴨居の身体を心配するメグ。

「うん平気。やっと仕事慣れてきて、少しずつだけど工具とかも覚えてきたしね。」

それはメグを安心させるつもりとかではなく、実際に鴨居はきちんと働けるようにはなっていた。

仕事の役には立てなくても、邪魔だけはしたくない。という一心で夜な夜な工具を勉強したからだ。

「そっかじゃあまた電話するね。あ、そうだ。ママがね、たまにはカモから電話してきなさいだって。」

嬉しそうに言ったメグ。

あれだけ鴨居を寄せ付けなかったメグの養母が、いよいよ鴨居を認めた証だった。

「分かった。二人に宜しく伝えといて。それじゃ、またね。」

「うん、ばいばい。」

受話器を置いた二人が同時に窓から外をながめた。

会いに行きたい気持ちを抑え二人は別々の場所で過ごしていく。

それは養父との約束だった。