樹に引きずられ、行き着いた先に待っていたのは……

「おい樹、何だこのひょろひょろしていかにも使えなさそうなヤツはよ。」

ラグビーでもやっていそうな図体。

一重目蓋の奥でギラリと光る眼光。

毎日セットしているんじゃないのかと思うほど綺麗に整ったパンチパーマ。

そして、右頬の刀傷。(実際は子供の頃に階段から落ちてついた傷)

(ヤクザだーーーーーーーっ!!)

あまりの外見の怖さに鴨居は口をパクパクさせて、震えている。

「だから新しい働き手だって言ってんだろうがよ、耳ついてねぇんじゃねーか糞ジジィ。」

その男にひるむこともなく樹は喧嘩腰に言う。

鴨居はもうただこの抗争(ただの喧嘩)に巻き込まれないようにと必死だ。

そしてもちろん巻き込まれれば必死だ。(※一生懸命に身を守るなどではなく、ただ巻き込まれて確実に死ぬ、の意。)

「このチャーミングな耳が見えねぇのかこの半人前!!」

「糞ジジィが横文字使ってんな。魅力的の意味分かってますかー?なんなら国語辞典でもそこの小学校から借りてきて差し上げましょーか?」

ついに巻き起こる昼間の壮絶な抗争。

果たして鴨居は生きてこの場から離れることができるのか。

鴨居の運命やいかに――





「いやいや、ただのいつもの喧嘩だから。キミわざさわざ変なナレーション入れて怖さ煽らなくても。」

そう優しく鴨居に話し掛ける青年。

「初めまして、ここの副社長の葛城(かつらぎ)です。樹から少しだけ事情は聞いたけど、ほらアイツあの通り大雑把でしょ?詳しい話聞かせてくれるかな?」

葛城はすごく物腰が柔らかくて、出来た人といった印象を受ける。

それに比べて、横で殴りあっている二人は……



「……。」

とりあえずあの二人は置いておいて、鴨居は事情を話し始める。

「はい。実は……」