「良いね、凄く似合っているよ要。」

杉宮は袴(はかま)に身を包んでいる。

二日間だけ退院をした静が、車椅子に乗り杉宮の元へとかけ寄ってきた。

「ありがとう静兄さん。ダルいけど頑張るよ。」

困ったように杉宮は笑い、ずっと自分を見ている十二一重に身を包んだ綺麗な女性の元へと歩いていった。

「まさかこんなことになってしまうなんて……」

静は肩を落とし、頭を抱えた。

するとそんな静の背中を大きな手が優しくさすってくれた。

「全て私のせいだ、静が気に病むことではないよ。」

その手は雲静で、彼もまた咲季恵との約束を守ることができずに、自分を責めていた。

「私は要をどれだけ振り回せば気が済むのだろうな……」

「お父さん……」

静の隣に座り、杉宮を見つめながら雲静は静かにそう呟いた。


「それでは今から結納の祇を執り行いたいと思います。」

三芝財閥の令嬢との婚約。

杉宮は静の戻るべき場所を失くさない様にと、望まない結婚。そして望まない跡取りを勝手出た。

もうあのありふれた日々に戻ることはない。

仲間達とコンパに行ってはしゃいだり。

好きな先生の研究室で、親友とも言える後輩とふざけたり、怒られたり。

遠くにいる恋人を思い、ふと窓から遠くの空を見つめたり。

そんなありきたりでありふれた、幸せな時間はもう二度とやってこないのだ。

「要さん……?」

そう思ったら杉宮は涙が流れた。

決して泣かない杉宮が、その時ばかりは涙を止めることができなくて、結納を執り行っている最中に、中断して席を立つ。

あとを追い掛ける花嫁。