訪れた部屋は、鴨居の予想を遥かに越えて変貌してしまっていた。
本棚には一冊も本がなく、散らかっていたデスクの上にはパソコンどころかホコリ一つ落ちていない。
全てが綺麗に片付けられた部屋に唯一あったのは、この部屋を使っていた人物の小さな鞄だけ。
「佐野先生……?」
そこは佐野の研究室で、鴨居は最後に佐野にはきちんと話をしてから学校を去ろうと思っていたのだった。
しかし、その人がいるはずだった汚い部屋は、何もない空き部屋となっていた。
放心状態になった鴨居が佐野のデスクへと歩み寄る。
ここにいた豪快な先生がいない。
杉宮と一緒に座っていた長机も椅子も、叩かれた分厚い英和辞書も、補習課題によく使っていた英語の参考書もなにもかもが、無くなっていた。
すると『ガチャ』と言う音がして誰かが部屋に入ってきた。
「んぁ?鴨居か?」



