「この家に引き取られる時、私は家族の温もりに囲まれて生きていける。そう思っていた。」

怒りからか、悲しみからか、メグの声は震えている。

「ところがあなたたちは、私に構うこともなく仕事仕事で家には居ない。私はあなた達の家族ごっこ、子育てごっこをするための人形じゃあない!!」

メグが最後に叫んだのとほぼ同時に、『パァァン』と高い音が部屋に弾けた。

「なんてことを言うの。私達はあなたに幸せになってもらいたくて必死で働いてきたのに。それをあなたは……うっ、う。」

メグを叩いた手で幸子は顔をおおいながら泣いた。

「裕福じゃなくたって良かった、私はただ家族で夕飯を食べたかった。学校から帰ったときに「おかえり」と一言言ってほしかった。ただそれだけだったのに。」

流れだした涙を見られる前にメグは涙をふいた。

行夫がメグの元へかけよったが、メグはそれを拒否した。

行き場の失った手を悲しそうに引く行夫。

「そんな悲しい思いをさせていたんだね。本当にすまなかった。許してくれ。」

行夫はその場に土下座をしてメグに謝罪をした。

本人だってわかっていた、そんなことをメグは望んでなどいないことを。

そんなことで過去は取り返しがつかないこと。

心に負った傷は身体の傷のように自然と消えていくものではないことも全部。

全部分かっていても、こうして謝ることしかできなかったのだ。

それだけが今、彼が気持ちを伝えられる唯一の方法だったのだから。