メグの予想は悲しいことに的中して、養父、行夫(ゆきお)が帰ってきたのは深夜の2時を過ぎていた。

「もう真理恵は寝ているのかい?」

「あの子まだ真理恵って呼ぶと血相を変えて怒るのよ。気を付けてくださいね。」

二人の会話はいつだってメグの耳に届いていた。

自分が養子としてこの家にいるのを知ったのだって、迎え入れられてから一月もたたないうちだった。

幸子と行夫は、まだまだ幼かったメグには養子であることを伝えずに、相川真理恵という女の子として育てようとしていたのだ。

しかし、そんな思いも知っててか知らずにか、メグは養子であることをすぐに2人に問いただした。


「それにしてもアナタ。こんな時だっていうのにもう少し早く帰ってこれなかったんですか?」

「無理を言うなよ。オレだって早く帰ってきたかったさ、でも無理なんだ君だって知っているだろう?」

少しずつ二人の口調が厳しくなっていく。

「それに君だって仕事で家を空けていたんだろう?どちらかと言えば真理恵が帰ってきた時に迎えてあげなかった君のほうが非難されるべきだと思うが?」

その言葉に幸子は完全に怒りを顕にした。

「なっ、私はあなたが結婚してからも自由に仕事を続けて良いと言うから結婚したというのに。こんな時ばかり私の責任にして、責任逃れもいい加減にしてくださいませんかね!!」

二人の会話は、どんなに布団を重ねてもメグの耳に入ってきていた。





「もう良いよ。あなた達はいつも自分のことばかり。私のことも家族のことだって考えてない。」

抱き締めたぬいぐるみが、苦しそうに震えた。

更けていく夜にメグの涙と、行夫と幸子の罵声が延々と飲み込まれていった。