咲き誇る花を見て悲しみを感じるのは

すぐにも枯れ行くと知っているからなのか――



それとも



また時が来れば咲くと知るこんな卑しい自分の心が見えてしまうからか――





知らぬ間に流れ出た涙を拭いたのは、涙を流しているメグではなく鴨居だった。

この旅で着古したカサカサの布が頬を撫でる。

メグはずっと涙を流していればこんな瞬間も終りはしないのか、そう思って悲しくなった。

「良いお父さんとお母さんなんだね。羨ましいな。」

少し赤みをおびた鼻を小さな右手で隠しながらメグは言った。

「メグちゃんのご両親はどんな人なの?」

そう聞いた鴨居はメグの表情に驚く。

一瞬、予想だにしていなかったかのような表情をしたかと思うと。

次の瞬間には悲しみをはらんだ笑顔を見せた。

「本当のお父さんとお母さんは分からないけど、今のお義父さんはすっごく優しい人。仕事が忙しくてたまにしか会えないんだけどね。」

はきはきと喋るメグ。息継ぎすらもしないように話し続ける。

そんな様子を見て鴨居は感付いていた。





きっと彼女は喋れなくなってしまうのだ。

息継ぎほどの些細な間さえも

言葉を口に出来なくなるほどに大きな障害に感じるから。

休んでしまったら――もう口にすることが出来ないのだ。





「だからね、私はパパもママも好きだけど、カモのお父さんやお母さんの様な……!!」

鴨居はメグを抱き締めて話を遮った。

「そ、それでね、私も……」

「良いよ。」

たった一言でメグの瞳に溢れるほどの涙が溜まった。

「だから、だから私も、私もカモの…」

鴨居はギュッとメグを強く抱き締めると言った。

「もう、良いよメグ。」



降り続く雨粒に交じって、メグの涙が堅いコンクリートに落ちて跳ねた。

まるで散り行く花の様に。 





散り行く花を見て美しいと感じるのは

色鮮やかな欠片が大地に積もり、また新たな花を咲かすと知るからか――



それとも



また来年もここで逢えたらと純に願う、自分の心を見るからだろうか――