放浪カモメ

清々しい晴れ渡る空を窓越しに見ながら佐野は、明るい声で言う。

「お義母さま。私、正喜さんと二つの約束をしたんです。」

「約束……?」

佐野は机の一番下から正喜と写っている最後の写真を取り出した。

正喜の明るい笑顔が日差しに栄える。

「はい。一つは私が勝手に約束したことで。正喜さんの命日には煙草を吸わないこと。」

佐野は少し笑いながらそう言った。

和子を和ませる意味もあったのだろう。

「もう一つは?」

「正喜さんは"もしも"の話をするのが好きでした。もしも結婚したら、もしも子供が生まれたら、もしも明日地球が無くなるなら……いろんな話をしたんです。」

佐野は写真の正喜の頬を優しく撫でると、その時のことを思い出しているのか微笑む。

「もしも僕が君より早くに死んでしまったら、どうかすぐにでも違う人を見つけて僕の分まで幸せになって欲しい。」

その時も写真と同じような幼い笑顔をしていたのを佐野は覚えていた。

「君が誰かを見つけるまで僕は幽霊になって監視するし、誰かを見つけた後は仏にでもなって君達を見守り続けるから。って……笑いながらそう言ったんです。」