俺達のお袋は……正確には俺と樹の母親は身体が弱かった。

父親は俺が二歳で、樹が産まれた直後に交通事故で死んでしまったらしい。

父親はあまり写真が好きじゃなかったようで、俺は父親の写真を一つしか見たことがない。

綺麗なウェディングドレスに身を包み幸せそうな顔をしたお袋と、とても優しげに笑うその人の写真。




お袋が今の親父と再婚したのは俺が小学校を卒業するほんの少し前のことだった。

京都で有名な旅館の一人息子だったその人・半田 雲静(はんだ うんせい)も、お袋と同じ時期に妻を事故で亡くしていた。

そんな二人だから互いの気持ちが分かってしまったのだろう、出会ってから再婚に至るまでにそれほど時間はかからなかった。

互いにバツイチ、そして子持ちだった。

雲静には旅館を継がせると決めた息子がいた。それが静兄さんだった。

静兄さんは俺よりも三つ年上で、俺や樹のことを本当の兄弟のように扱ってくれた。

でも、樹や俺から見た静兄さんは兄弟ではなかったんだ。

お袋の愛した父親の様な優しい笑顔をする静兄さんを、俺達は自分の父親と知らない内に重ねてしまっていたのかもしれない。