トテモトテモ深い事情があり、鴨居は駅前のレンタルビデオ屋に来ていた。

その手には意味深なメモ帳が握り締められている。




さかのぼること約半日。

「おう、鴨居。良いものやるから放課後来い。」

朝っぱらからそんなファンシーな電話をもらった鴨居は、全ての講義が終わった後に佐野の研究室を訪れた。

「こんちはー。佐野先生、来ましたよ。」

扉を開けると佐野は忙しそうにパソコンと格闘をしている。

佐野は鴨居をチラっとだけ見ると、カタカタと軽快なタイピングをしながら、某長寿番組冒頭のようなリズムに乗り言う。

「さて、鴨居。今日は何の日?ふっふー。」

「…………。」

たいくつな授業が終わったばかりだと言うのに、そんな仰天な出迎えられ方をされては鴨居でなくとも硬直してしまっただろう。

「えっと……先生の公演の原稿締切?」

遠慮がちにそう言った鴨居をまるで鬼のような鋭い目付きで睨み付けた佐野。

「そんなのはどうでも良いんだ!!」

飛び出す罵声。

響く教室。

固まる鴨居。

教授にとって主となる仕事の原稿を、そんなものはどうでも良い。なんて叫ぶことが出来るのは、世界中を探しても彼女一人だけだろう。

「えっと……じゃあ何の日なんでしょうか?」

丁寧に尋ねた鴨居を哀れみを含んだ表情で見ると、佐野はわざとらしく大きなため息を吐いた。


「はぁ……まったくお前の無知には呆れるな。今日は駅前のレンタルビデオ屋の100均デーだ。」



「はい?」