放浪カモメ


次の日の朝。

鴨居は珍しく寝坊をしてしまった。

と、言うのも昨日のことを夜中まで思い悩んでいたからであった。


そう二年――

二年もの月日を費やし、手に入れたキズナというやつは。

鴨居の思わぬ形で、いとも簡単に切れてしまったのだ。

さらに鴨居に追い打ちをかけるのは、切れた原因となる部分に、自らの否が全く無いということだろう。

否があれば、仕方ないなどと諦めたり。

違う選択をしていたなら、などと後悔もできたことだろう。

鴨居に出来ることは何一つ無いのだ。



何一つとして。




遅れを取り戻すべく素早い支度をした鴨居が、玄関を出るとちょうど岡崎も出発しようとしているところだった。

鴨居と岡崎とが会うのは、あの時以来。

「あ、お早う早苗ちゃん。」

少しわざとらしい笑みを飾り、挨拶をしてきた鴨居を見ると、岡崎は顔を僅かに赤くし目に涙を溜めると。

それが零れ落ちてしまうのを見られないように、部屋の中へと戻っていってしまった。

「…………」

飾り付けた笑顔は鴨居が意識せずとも、自然と崩れ落ちる。

悲しみや、戸惑い、僅かな怒りや、それに……

色々な感情が湧いては落ちていくのだが、鴨居の表情は不思議なくらい変わらなかった。