「前に付き合っていた子をオレは深く傷つけてしまったんだ。好きでも無いのに付き合って、その子の思いが怖くなって逃げてしまった。」

すっかり暗くなった部屋に明かりを灯すことなく、二人は向き合う。

「そして、そのことから一つ学んだ……相手を思う『心』の無い『恋』が成り立つことはないんだ。って。」

岡崎の啜り泣く声が、暗い部屋に不思議なくらい確かに響く。

「もう、あんな間違いを犯して、自分を好きになってくれた子を傷つけたくないんだ。だから、アリガトウ……ごめんね。」


溢れだした感情が、鴨居をほんの少し成長させる。

振り絞った言葉が、仕方なくも相手を傷つけていく。

きっと、いつになったって恋愛とはこういうものなのだ。


すると急にパッと部屋が明るくなった。

泣いている岡崎の前で真剣な顔をしている鴨居を見て、長い一服から帰ってきた佐野は目を丸くする。

「えっ……と。お邪魔だったか?」

まいったな。と小さくぼやいて佐野は頭をかいた。

岡崎はくしゃくしゃになった顔を、強くぬぐうと出口へと歩きだす。

そして扉を開けると、鴨居の顔は見ずに。

いや見れないままに明るい声を作って言うのだった。

「先輩が私のことをそこまで考えて出してくれた答えだって分かって嬉しかったでス。困らせちゃってゴメンなさい……」

パタンと扉を閉めると、岡崎が走り去っていく音が、徐々に小さくなっていくのが聞こえた。