やれやれだ。

めったにない電話が鳴ったと思えば三拍子揃った男。

軽くあしらったが粘着質な奴だと嫌だな。

ストーキングとかされちゃったりして。

名前なんか名乗れるわけない。
フルネームなんて尚更だ。

浅見麻美

再婚した母のせいでこんな変な名前になってしまった。

お笑い芸人の芸名じゃないんだからさ。

まあ、しょうがない。
昨日今日の話じゃない。
もうこのヘンテコな名前になって十年も経つ訳だし、母を恨んでも仕方ない。

事務所と言ってもデスクが一つ、電話が一つしかないマンションの一室。ここに閉じこもっているだけでも鬱になりそうなのに、あんなおかしな電話ばかりでよくも叔父は平気なものだ。

叔父がおかしな団体の代表なせいで、アタシの仕事が休みの土日に留守番バイトを頼まれることがある。
代表なんて言っても一人しかいないわけだが。

今日は叔父は講演会だそうだ。

いつもならあまり電話も鳴らないのについていない。

まったくやれやれだ。
叔父の入江利一からは
「まあ、話を聞いてあげるだけでいいよ。悪戯も多いからそれは適当にあしらっておいて。麻美ちゃんは心理学やってたしその変は大丈夫でしょ」

なんて軽く言ってたけど、それとこれは全然違うだろう、と思いつつも割りの良いバイトであることはたしかで頼まれるたびにここに着てしまう。