広い病院に入ると、少し後悔した。


心のどこかに今なら帰れるという気持ちが現れた。


私はそれを振り払うと沙織さんのいる場所に向かった…


山本君はここに残ってる。と言うと近くの席に座った。


しかし山本君の顔から緊張が消えることはなかった。



少し不思議に思ったが、私はゆっくりと歩きだした…




いきなり来たからびっくりするだろう…


何から話せばいいのかな…


そんなことを思いながらリハビリ室へと向かった。




リハビリ室には小さい子供もいれば老人の方もいた。


私は恐る恐る中を見渡した…



「あれ…」


いない…のかな…

そこに中学生ぐらいの女の子はいなかった。


私は近くにいた看護師さんに聞いた。


「すみません…片桐…沙織さんはいますか?」


「あぁ、沙織さんなら屋上にいますよ。今日は天気がいいから気持ちが良いだろうって」


看護師さんは笑顔でそう言った。



私は深呼吸をすると屋上へと向かった。




私はエレベーターを使う気にはなれず階段を使った。



私は一段一段を踏み締めた。




屋上につくと、私はゆっくり扉を開いた。



目の前に青空が広がった。



手を伸ばせば届きそうなほど近くに感じた。



洗濯されたシーツが風に揺られていた。



その中に一人女の子がいた。



私の胸がドクンと音をたてた…



「沙織…さん…」



その声が聞こえたのか長く、ウェーブのかかった綺麗な髪がゆれた。



優しそうな大きな瞳が私をとらえた。



私は何かに包まれたような気がした…


「私の名前…呼びましたか?」


しっかりとした声が私に話しかけた。



「…ハイ…そちらに行ってもいいですか?」


沙織さんはどうぞと笑顔で私を迎えてくれた。



私はなんだかホッとしていた…