夜…私は香奈に電話をかけた。



正直出てくれないと思った…


「…もしもし」


「香奈?私…」

香奈の声は少し震えていた。さっきまで泣いていたみたいに…


「香澄の言いたいことは分かってる…私は大丈夫…」


本当に…大丈夫なの?


「松原君との幸せな時間はすごく短かったけど…それでも私は楽しかったから」


「…香奈…」


「…後悔はしてないの。松原君にそんな過去があったなんて知らなかったけど…」


香奈の声は少しだけ元気になった気がした。


「次は香澄の番じゃない?」


「えっ…」


「好きなんでしょ…松原君」


「……」


「正直また気持ちの整理はついてないし、まだ好き…でも終わってしまったから」


「好きなんでしょ?諦めるの?」


「香澄…人の心配してる場合じゃないでしょ」


「そんな…」


「そこが香澄の悪いとこ」


「頑張ってね」


香奈はそう言うと電話を切った。




私はゆっくりと受話器を耳から離した。


窓から入ってきた風の音が耳に心地良かった。


私は…誰が幸せになれば嬉しいの?


松原君?


香奈?彩夏?



自分?



違う…



みんなが幸せになればいい…


香奈は幸せだったと言ってくれた…


松原君は…



私はゆっくり後ろを振り返り窓を見た。


明かりのついている部屋に松原君はいる。



私はそっと窓を開いた。



向こうの窓も少し開いていた。


「松原君!」



松原君は私に気付き窓を開けた。



「どうした…木村さん。悲しんでた…?」



松原君は彩夏を心配していた。



「うん…でも松原君と付き合ったことに後悔はしてないって…」


「そっか…」


「幸せだった…て言ってた」


松原君の表情が少し柔らかくなった。



「松原君…幸せ?」



「え…」