「この問題解る人?」
先生がチョークを持って前を向いた。
午後の授業はゆるい雰囲気に包まれていた。
桐原沙織
この名前が頭から離れなかった。
松原君の彼女だった人…
そして、今でも好きな人…
私の初恋は実らなかった。
簡単には割り切れない…だけど、そう自分に言い聞かせないと…潰れそうだ。
松原君は熱心に授業に耳を傾けていた。昨日のことは忘れているかのように…
私も、早く忘れなきゃ…
「放課後、時間ない?」
バッグに教科書をつめていたとき、森田君が話しかけてきた。
「う、うん。分かった」
私は手を止め、教室を出た。
その時、彩夏がこっちを見ているのが分かった。
森田君は屋上へと、向かって行った。
屋上の扉を開けると、夕日が溢れてきた。
昨日の保健室のように。
「昨日の話は気にするなよ。もう、沙織さんは亡くなった。松原もそのうち分かるよ」
森田君は笑顔で言ってくれたけど、本心じゃないことは分かった。
「ありがとう。私は大丈夫だよ」
私も無理矢理に笑顔を作った。
「無理するなよ」
「森田君…」
森田君はどうしてここまで、私を気遣うの?
「どう頑張っても私は沙織さんには負けてしまう…」
そう言うと私は屋上をあとにした。
そのとき誰かとすれ違ったけど、誰だか分からなかった。
ただ、その人が森田君と話しているのは分かった。