Magic Academy ~禁書に愛された少女~

ユエが大切に仲間たちを育てている。だからそんなはずはないだろうと思ったが、温室すべてのマンドレイクに均等に水をやるなんていうのは確かに難しいかも知れない。そう思うと、そらはすっと立ち上がり、水場においてあった少し小さめのバケツに水を汲んでくると、元気のないマンドレイクに水をやった。

水を吸収すると、マンドレイクが心なしか、元気になったように見えた。

「ほら、わかっただろ?」

シークに言われて、少しだけ納得した。

「うーん…まぁ、なんとなく?でも、これであってるのか自信ないんだけど」

その言葉に、シークはふっと小さく笑った。

「それにしても…ユエはどこにいったんだろ」

温室内をきょろきょろと見回してみたが、ユエらしき姿がどこにもない。シークもそれは感じていたみたいで、確かに、と呟いた。

「…こんなとき、マンドレイクが喋れたら、話が聞けるんだけどなぁ…」

そういって、近くのマンドレイクにそっと触れる。すると、一瞬ではあったが、そらの頭の中を映像が横切っていった。

「みや…さん…?」

みやが朝早くにこの温室にやってきて、何本かのマンドレイクを使い魔らしき犬に引っこ抜かせて持ち去っていく姿が浮かんだ。
そして、ユエがものすごく怒った表情を浮かべて、みやの後を追いかけていく姿が見えた。

「そういえば、昨日の夜も、みやさん、ここにきてマンドレイクを持って行こうとしてたっけ」

ふと思い出す。ユエを持っていかれそうになって、あわてて阻止したことを。

「ね、シーク。マンドレイクって、どんな魔法薬に使われるの?」

「そうだな…一般的には媚薬だな」

「び、媚薬!?」

「そんなに驚くことでもないだろう。今も昔も、変わらずかなりの需要があるようだぞ?」

シークに言われて少し複雑そうな顔をするそら。媚薬なんてもののために、ユエが大切に育てているマンドレイクを何本も持っていかれるのは少し不愉快だった。だが、よく効く媚薬が、高価でよく売れているというのも事実で、自分で作ろうと思うその気持ちもわからないでもなかった。

「ま、まだこの温室のマンドレイクじゃ、効果のある媚薬は作れないだろうがな」

けらけらと笑うシークに、そらはさらに複雑そうな顔をする。