Magic Academy ~禁書に愛された少女~

温室の前に到着する。中をそっとのぞいてみると、ふわっと良い匂いがしてきた。

「おはよう、遊びにきちゃった」

ユエの姿は見当たらない。誰に話しかけるわけでもなく、そらはそう言って、中に入っていった。

「ね、シーク。マンドレイクってどうやって育てるの?」

魔法薬に使われるくらいの薬草だ。当然、特殊な育て方をするものなのだと思っていると、シークから返ってきた言葉は意外と普通のものだった。

「愛情をかけて、大切に育ててやればいい」

普通の植物と、どうやら育て方は変わらないようだ。

「水だって、あいつらが欲しがればやったらいい。栄養が足りなきゃ、そう言ってくる」

「…あの、シーク?」

「なんだ?」

きょとんとした声でシークが答えた。そらもその声に首を傾げた。

「私、魔法薬に使われるような特殊な薬草って育てたことないからわかんないんだけど、マンドレイクって基本しゃべるの?」

簡単な植物ならいくつか育てたことがあるし、両親が生きていたころは、庭で小さな家庭菜園をしていたこともある。
が。
育てていた植物に話しかけられた記憶は一切ない。

「何を言ってるんだ。植物がしゃべるわけないだろう」

少し馬鹿にしたようにシークに言われて、そらは少しむっとする。

「だって、シークが自分でいったんじゃん。水は欲しがればあげればいいし、栄養がたりなきゃそう言ってくるって」

少し膨れっ面になりながら、不服そうにそらは言った。それを聞いて、シークは笑った。

「おまえ…素直と言っていいのか、馬鹿なのか。紙一重だな」

その言葉に何を!?と怒るが、シークの声が心なしか優しく聞こえた気がして、そらはそれ以上は何も言わなかった。

「そらならわかるよ。マンドレイクを見てみろ」

「えぇ?そんなのわかんないって」

そういいつつも、その場にしゃがみふこんでじっとマンドレイクを見つめた。特に何か変わった様子が見受けられるわけでもなく、やっぱりわかんないじゃん。と呟いたそのときだった。

「…あれ?」

マンドレイクの一部が、心なしかしおれて見えた。まるで元気がないとでもいうふうで、そらはそのマンドレイクをそっと触った。

「…水、もしかして届いてないのかな」