「単なる散歩だよ」

はぁ、とため息混じりに答えると、みやがキッとそらを睨みつけてきた。

「なに、そのため息は。ため息つきたいのはこっちよ!」

みやは負けじと、大きなため息をついてきた。

「ふん、まぁいいわ。私、今はとっても気分がいいの」

確かに、いつものみやにしては、機嫌がいいような気がした。

そして、はっと気がつく。


みやが歩いてきたのって、あのマンドレイクの温室の方からだ!


「目的のマンドレイクも手に入ったし、何よりあんなに素敵な人に出会えるなんて、思ってもいなかったし!」

「素敵な人?」

今はシークとユエしかいないはずだが、シークは本で、人じゃない。ユエかとも思ったが、温室でのみやの反応を考えると、彼女にはユエはただのマンドレイクにしか見えていなかったはず。
じゃぁ一体、素敵な人って誰なんだ?そらが考え込むと、みやは今まで見せたこともないような、きらきらとした目で語った。

「そう、とっても素敵な人!短い黒髪で、目はルビーのように赤い色をしていて、長身ですらっとした体格。容姿端麗とはまさにあの人のことね!」

うっとりとしたみやの姿に、思わずそらはひいた。

「へー。そんなにかっこよかったんだ」

思わず棒読みになるそら。みやは当たり前でしょう!とそらに怒鳴った。

「あんたなんかにかまって、せっかくのこの幸せな気分をぶち壊されちゃたまんないわ。それじゃね」

ひらひらと手を振って、みやはその場を去っていった。

「素敵な人、ねぇ…」

みやの言っていた特徴の人物をどこかで見たような気がしたが、どこでだったかが思い出せない。

「…まぁいっかぁ」

そう言って、空に輝く月を見つめた。