Magic Academy ~禁書に愛された少女~

ボタンを押す手が少し震える。冷や汗をかきながら、隣でそらが俯いている。

「ちょっと、そら?すっごい汗じゃん!」

アッシュに言われて、大丈夫、と手を振る。

「大丈夫とか、そんな感じには見えないって!」

エレベーターがチーン、と音を出す。降りると、ふらふらとした足取りでそらが部屋へと向おうとした時だった。

「ちょっと、そら!こっちきて!」

アッシュに手を引っ張られ、部屋に連れて行かれる。ソファに座らされる。

「ほら、これ飲んで」

ホットココアを差し出されて、それを一口飲む。

「ありがとう」

ココアを飲んで少し落ち着いたのか、汗も少し引いてきた。

「ね、そら。何かあったの?」

アッシュに聞かれて、言葉に詰まる。答えていいものかどうか、答えてしまったら、アッシュにまで迷惑がかかるんじゃないか。そう思うと、言葉が出なかった。

(今はまだ、黙っておいた方がいいかもな)

シークの声が聞こえる。そらは、そうだよね、と呟き、アッシュにはまだ、黙っておくことにした。

「うん、私さ、昔っから出来が悪いから、ああいう上の人に名前知られてると緊張しちゃって」

苦笑いを浮かべると、アッシュは不審そうな表情をした。

「…そらがまだ言いたくないなら、しかたない」

軽いため息をひとつつくと、アッシュはそらの頭を撫でてきた。

「ま、何かあったら言ってよ?」

言われてそらは笑った。

「ありがとね」