この言葉を聞くたび、明衣は意味も無く苛立ちを覚えた。
普段はサボりグセが有るくせに、変に真面目な所がある明衣にとっては、こういったいい加減な教師は許せない。
周りの皆は見た目も良いし、授業も楽で良いだとか、彼を絶賛している者が大多数ではあるが、明衣は教師なら教師らしくしてほしいと思っていた。
確かに、見た目は格好良い、というか美しいと言う方が正しいのだろうか。
プラチナのような色の、癖の無い絹糸のような髪に、青み掛かった灰色の目。
その奥の瞳孔は赤みが差しており、日本人離れした色彩が周りの目を釘付けにしていた。
病的なまでに白い肌は、陶器で出来た人形のようで、明衣は自分と彼が同じ人間であることが今だに信じられない。
名を、楡沚(ニレ ナギサ)。
本人曰く、その嘘みたいな色彩は生まれ付きらしい。
「あー…授業怠いな……。世界史歌留多でもやるか」
楡は無表情のまま、教卓の上に『世界史歌留多』と書かれた箱を置き、乱暴に巻かれていた輪ゴムを外した。
やる気無さ過ぎのこの態度に、明衣の額はピクピクと青筋を立てていた。



