* * * *



「先輩は就職するんですね」

「まぁね」


放課後、部室でぬくぬくしていた本郷に、温かいココアを差出しながら明衣は呟いた。その呟きに、ココアを受け取りながら本郷は首を縦に振った。湯気ののぼるココアをすすりながら、明衣は目を伏せて言った。

「あと一週間もしちゃえば…先輩は卒業式まで学校来なくなっちゃうんですね」

「そうなるわねぇ。ふふ、早いわぁ、ちょっと前までは新しい部活が出来たって舞い上がってたのに」

本郷はクスクスと上品に笑って、明衣の方に振り向いた。

「急にどうしたの? ……もしかして、淋しいとか?」

「ち、違いますよ! 別にそんなわけじゃ……」

明衣は慌てて否定したが、やがて語尾が小さくなってシュン、とうなだれた。

「なんだか、淋しいというか……変な感じがするんです。この部屋から先輩が居なくなるなんて。イマイチ想像が出来ないっていうか…」

本郷は明衣の話を黙って聞いていたが、やがて小さく笑った。

「やぁだ、辛気臭い顔しちゃって。まだ私はここを離れるわけじゃないし、卒業まではこの辺りに居るわよ」

だけど、と本郷は残念そうに呟く。

「最後にもう一度、皆で何か思い出に残るような依頼を受けたかったな」

その言葉の最後と同時に、部室の扉が乱暴に開かれた。しんみりしていた二人は思わずそちらを見た。

「……依頼、来た」

楡がパソコン片手に立っていた。






【最後の依頼】