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『怪我はもう良いの?』
「別にたいした怪我じゃなかったし……」
電話越しで聞こえる芳三の声は優しい。以前、楡が額を怪我していたのを心配しているらしく、あの日からたびたび電話をよこしていた。
仕事中、職員室の中の給湯室で携帯電話を片手に、楡はつっ立って居た。
楡が怪我のことを話すと、『良かったー』と返ってきた。そのあと、ふと思い出したように芳三が口を開く。
『あ、でさぁ、良いんだか悪いんだかわかんないんだけど、一つ報告があってね』
「なに?」
楡が聞き返すと、芳三は何を思っているのか、しばらく沈黙した。ぼんやりと答えを待つ楡と、電話の向こうで口を閉じた芳三の間に、妙な静寂が訪れる。
こぽ、と電気ポットが音を立てると、芳三の声が聞こえた。
『お前さんの両親を殺した奴がさ、見付かったんだよ』
「………へぇ」
楡は小さく返事をした。捕まったのではなく見付かったと表現したのは、つまりそう言うことだからだ。
『現場の痕跡と、そいつの色んなモンが一致したんだけどね』
ちょっと遅かったみたいだ。
楡は残念そうに呟いた芳三の声を聞きながら、至極穏やかに言った。
「良いんですよ。…見付かったなら、それで」
もう、済んだ話だ。