取り敢えず山盛りになった吸い殻をゴミ箱に捨て、元あった位置に灰皿を戻す。
そもそも校内は禁煙の筈だ。
今度校長か教頭にチクってやろうか、と明衣は思う。
さっきの挨拶に返事が無かったので、誰も来ていないのか、と思いながらソファーに腰掛けた時だった。
「あ、明衣ちゃん。早いのね」
カーテンが揺らめき、そこから顔を出したのは、高めのポニーテールがよく似合う本郷だった。
明衣はぎょっとしながらも、平静を装って軽く頭を下げた。
程よく色付いた本郷の形の良い唇が、明衣の態度と同時に弧を描く。
「緊張しなくて良いのに。昨日先生に接してたくらいの態度で良いのよ」
「あ、……はぁ…」
しまった、と思いながら、明衣は軽く俯いた。
昨日楡と言い合っていた場面を見られ、かなり恥ずかしいと今更ながらに思う。
「あまり気を遣われるのは好きじゃないの」
「そうですか」
本郷は明衣の隣に腰掛けた。
「それにしても驚いたわ。いつも遅刻してばかりだって聞くから、まさかこんなに早く来てるなんて。今日も、本当はサボって来ないかと思ったの」
「酷くないですかそれ…?」
明衣は軽く苦笑し、本郷は「ごめんごめん」と悪戯っぽく笑いながら謝る。



