楡、と言う名前を聞いた瞬間、母の表情が明るくなった。
「楡!? ひょっとして、沚君かしら!?」
「へっ?」
知ってるの? と言うか、名前呼び!?
目を丸くした明衣に気が付いたのか、母は豪快に笑った。
「あぁ、覚えてないでしょうねェ。もう随分前の話だし…10年は経ったかしら」
「覚えてるも何も…一体なんの話だかさっぱり……」
しみじみとした雰囲気が漂う中、そう言えば明衣は靴を脱いで玄関に立たされている状況だった。
いつになったら部屋に上がれるのだろう、と思いながら母の表情を見る。
「良い男になったのかしら? ねぇ?」
「知るかバカッ! 良い年こいて何言ってんの」
「ちょ、酷くね!? まだ青春したい年頃なんですぅ〜!」
「年がら年中生徒と走り回ってんだから良いでしょ! つーかいつになったらあたしは部屋に戻れるの!!??」
「あっ、そうだったわね」
…………疲れた。
明衣はげんなりした。



