今の尾行はバレていないようだ。
──明日辺りにでも、皆に相談してみよう。
明衣はそう考えながら席を立ち、オレンジジュース一杯分の代金を払って足早にその場を立ち去った。
刹那、楡と目が合った気がして肩が飛び跳ねたが、気のせいだと言い聞かせて足を速める。
万引き犯ってこんな気分なのだろうか、なんて場違いなことを考えながら、帰宅した。
「あぁ、遅かったじゃないの。どうだった? 演奏会は」
玄関で靴を脱いでいると、珍しく母が出迎えてくれた。
「…今日は仕事早かったの?」
明衣は目を丸くしながら、彼女の質問には答えず、逆に尋ねてしまった。
母は苦笑する。
「やぁねぇ、たまには良いじゃないの。いつも職員室に籠もってたらコーヒーの匂いが移るわ」
そう言って気さくに話す彼女は、その人懐っこい笑顔や性格から、生徒からも保護者からも信頼を得ている。
ちょっと自慢だ。
「そーなんだ。遅くなったのは、帰り道にちょっと楡と会ったから…」
会った、と言うよりは、見た、なのだが。



