「お帰り、沚兄ちゃん!」
「………………」
ドアを開けた時、笑顔で基が出迎えてきた。
楡は言葉を失い、茫然と立ち尽くす。
彼は家に帰ったのではなかったのか……?
不思議そうに立っている楡を見兼ねてか、基は楡のカバンを取り上げた。
「暫く此処に住まわしてよ。同情しくさったオバサンの所に居るより、アンタみたいな人と一緒に居たほうがマシ」
「……あぁ、そーなの…」
楡が口を開いて靴を脱ぎ始めれば、基は悪戯っぽく笑った。
「ちょっとどんなリアクションするか楽しみだったけど、アンタ余りリアクション上手くないね。それでも教師だろ?良いのかよそれで」
「クビになってないって事は良いんじゃないの」
そう答えながら、楡はネクタイを放り投げる。
──違う。
リアクションが出来なかったのは、それをする余裕が無かったからだった。
基の姿、言葉が過去に重なって、一瞬体の全機能が停止したような、そんな感覚に陥った。
激しく動揺した心を、いつものポーカーフェイスに押し込んだ。



