取り敢えずホームルームを滅茶苦茶にした明衣は、置き勉のお陰ですっかり軽いカバンを机にどかりと置くと、満足したように椅子ではなく机に腰掛けた。


「朝から元気ねぇ、明衣は」


「美帆子が婆臭いんだよ」


「いや、違うと思う…」


机に座っている明衣に話し掛けてきたのは、一年の頃からの仲良し・杉原美帆子『スギハラミホコ』。


癖のある明衣とは違い、さらりとした黒髪が特徴の彼女は、いつも暴走する明衣のストッパー。


「大体リトルがウザイんだって。毎回毎回何なのよ」


「明衣のこと心配してくれてんだよ。良い先生じゃん?」


明衣が舌打ちすれば、それを美帆子が宥める。


リトルとは、桑島のあだ名である。


世界的に有名なディ●ニーのあるニワトリに似ていることから付けられた、今や誰しもが敬意を込めて呼ぶ、愛称なのである。


誰にでも公平で、尚且つ一人一人と真剣に向き合おうとする姿勢が、生徒からも信頼を集めている、今時には珍しい教師。


それが、桑島和秋──またの名をリトルである。