翌日、明衣は珍しくホームルームが始まる前、つまり8:30前に登校した。
校門の前で立ち番をしていた桑島に驚かれ、「今日は雨が降るのか」等と呟かれたが、そんな有りがちな言葉は無視した。
玄関に真直ぐ向かい、上靴を乱暴に床に投げ捨て、下足を下駄箱に片付ける。
パン!と上靴が床に当たってよく響く音を立てた。
「……げ」
靴の踵を踏み付けながら顔を上げ、前を向いた明衣は、まさに苦虫を噛んだみたいな顔をした。
「………げ…って何?」
明衣の前にくたびれた様子で棒立ちになっているその男・楡は、至って無表情で糸のはずれた傀儡人形のようにコテリと首を傾げた。
コイツの顔は能面か何かなのだろうか、と明衣は思う。
「アンタ今日立ち番?」
「……まーね。………見て分かると思うけど」
明衣が嫌そうな顔のまま尋ねると、楡は相変わらず無表情のまま傾げた首を元の位置に戻しながら答える。
その言葉の端々に、何と無くバカにされているような気がして、明衣の眉間の皺は無意識に深くなった。



