♪『終わった事は変えらんない
けどまだ何も始まっちゃ居ないだろ?
赤マル付けたあの日まで
あたしは今から走り出す』♪


本郷はぼんやりしながら歌を口ずさむ。

明衣もいつの間にか、一緒に口ずさんでいた。




あの日──


結局バンドコンテストは、圧倒的な歌唱力と、吹奏楽部を起用したスケールの大きな演奏で会場を魅了した、『チキンと愉快な仲間達』が優勝を飾った。

「何だよ!本編で一行も出てないくせに!」

と明衣はさり気なく叫ぶが、誰も聞いてはいない。

城ヶ島は、見事にベストボーカリスト賞を受賞し、目に涙を浮かべていた。


ところで、High-Soundはというと──






「優勝できなかったのは残念でしたけどね〜……」


明衣は呟く。

ベストボーカリスト賞を受賞したその瞬間、城ヶ島は沢山のクラスメイトに囲まれ、歓声を浴びていた。

皆に認めてもらえた、瞬間だった。


「うちら的には、完璧だったわね」


本郷は笑った。

そして、明衣の肩をとんと叩く。


「来年は期待してるわ」

「……へっ?」


明衣は素っ頓狂な声を上げながら、本郷に視線を向ける。


「優勝目指して頑張って!」

「来年も出ること前提なのォォォ!?」


明衣は思わず叫んだ。

そして、二人仲良く部室を飛び出す。


乱暴にドアを閉めたとき、机に立ててあった額に入れられた写真がゆれた。



『ベストオリジナルソング賞・High-Sound』





【心音─ココロネ─】完