明衣は、家に持ち帰って練習した。
ソフトケースは付属されていたので、必要なものをそれに入れて持運びが出来るようにしたのだ。
楽譜に書かれている事もよく判らず、取り敢えずコード早見表を見ながらコードを押さえるのに精一杯だった。
「ん?ん〜?Fって……」
たどたどしくフレットを押さえ、四苦八苦しながら楽譜を睨み付けるが、何しろ弦が細く、指に食い込むため痛い。
しかも、バレーコードは難しく押さえられなくて、少しだけ挫折気味だった。
──やるからには優勝……
明衣はギターを抱えたままベッドに倒れこんだ。
どうして本郷は、他人のためにあそこまで入れ込めるのだろう。
今までの依頼も、明衣は頑張っていたようでどこか冷めていた。
彼女のように、バタバタと奔走したりはしなかった。
今もそうだ。
明衣は物事を他人事のように捉える傾向がある。
だから、少し難しいコードが出た途端にこれだ。
楽譜と早見表を投げ出し、ベッドに体を沈めた。



