練習といっても、基本からゆっくりやる時間はなく、曲に使われる表現やコードを覚えるのが最優先になった。
ギターを初めて触った明衣は、隣で楽譜をさらっている本郷を黙って見ている。
「この曲、城ヶ島さんのオリジナル?」
本郷は楽譜から目を離さずに、後ろで楡のドラム組み立てを手伝っている城ヶ島に尋ねた。彼女は頷く。
「うん……私歌が好きで…普段言えないことでも、歌なら言える気がするから」
本郷は「ふーん」と言いながらギターを軽く鳴らしている。
それから、顔を上げた。
「この曲、完成したらどっかの音楽プロダクションに持ってったら、城ヶ島さんの進路決定しちゃうわね」
「え?」
城ヶ島はきょとんとしながら本郷を見ている。明衣も同じく顔を上げ、どこか自信満々の彼女を見上げた。
「この曲凄いわ!絶対うまく演奏すれば優勝が狙える!頑張りましょ!」
やたらと「うまく演奏すれば」の部分を強調しながら、本郷は言った。楡はやれやれと溜息を吐くが、五月女は頭の構造が単純なのか、ガッツポーズをしながらベースを片手にパソコンに向かう。
それぞれが、動き始めた。



