しかし、そんな彼女をよそに本郷はパンパンと手を叩き、てきぱきと指示を出し始めた。
「城ヶ島さんはボーカル志望だから、ボーカルね。私と明衣ちゃんでギター、良祐はベース。先生はドラムでお願いします」
「え、俺も入ってんの?」
本郷の言葉を聞いて、楡は驚いたように少しだけその眠そうな瞳を見開いた。本郷は満面の笑みで頷く。
「勿論。別に先生が出ちゃいけないなんてルールは無いし、ギターは二本有ったほうが格好良いし、城ヶ島さんはボーカルに専念すべきだし。だから、必然的に、先生がドラムなんですよ♪」
終始笑顔で続けられたそれに、楡は無表情を少しだけ嫌そうに歪めながら、くわえていたタバコをポロリと口から落とした。
そうだ。この人はそういう人だった。
五月女は妙に納得してしまった。
普段物腰は柔らかで、優しい表情で周りを和ませてはいるが、実は人一倍負けん気が強く、言い出したら梃子でも動かない頑固者。
それが彼女、本郷蘭なのだ。



