独りになって、三度目の春が来た。

庭の片隅にある桜は、細い枝ながらも立派に花を纏ってくれた。

上がりたての月を頭上に構え、いっちょ前に花吹雪などを散らしている。

この家を買った際に、友人からもらった桜の苗木。

それだけに、今日の花は一段と愛おしい。

僕はふと思い立ち、デジカメを漁りに行った。

友人に送ってやろうと思ったのだ。

が、詰め込み過ぎた引き出しはなかなか開かない。

僕はちょっとムッとして、力任せに取っ手を引っ張った。

大人げないことをしてしまった。

引き出しは派手な音を立てて、床にガッツリ傷をつけ、中身を巻き散らかして転がった。

「何やってんだ」と言いかけて、口をつぐむ。

最近「独り言が増えたんじゃない?」なんて、指摘されたばっかりだから、色々な意味で悔しかった。

半ばやけくそに中身を拾いながら、空になった棚を見上げ、突っかえてた犯人が何だったかに気がついた。

棚の奥に手を突っ込んで、ビニール袋を引っ張り出した。

中には、予想してた通り、折れて歪んだ台紙と数本の花火。

細長いビニールからそれらを出すと、花火を整え、曲がった台紙をクキッと延ばした。

すると、一通のメモが、ひらりと足元に落ちた。

丸味を帯びた小さな文字。

一目で君の物だと分かった。

そこには、沢山のありがとうと、ごめんねが詰まっていた。

僕に出会ってどれだけ幸せだったか、この別れをどれほど悩んで出したものだったか。

小さなメモ一杯に、君の言葉が溢れていた。

僕は、散らかったままの床に仰向けになり、両腕で涙を抑えた。

「馬鹿だな・・・」

君は、ここが大好きだったのか。

「ごめんな」

僕も、大好きだよ。

「ホントに、大好きだった」

もうすぐ、三度目の夏が来る。

今年は。

君が愛してくれた、僕のささやかな至福の時を、縁側で過ごそうと思う。

もう、独りでも大丈夫。

君は、君らしく。

頑張れ!