その途端に緩む彼女の手。
僕は勢いよく後ろに転がった。
そのすぐ側で包丁が床に落ちる。
「…そう言ってくれると思ってた。
大和?あの子の事、好きなんでしょう?
私には何でも分かるのよ。
付き合ってるんだよね?」
落ちていた包丁を右手で拾い上げて、左手の掌にパシパシと叩き付けながら問う。
無言でいる事を肯定と取った華耶は
「別れなさい。その方法はあなたに任せるわ」
と脅す。
「…待って」
「待たない。今すぐに、言って」
今すぐって…
いくらなんでもそれはないだろう。
その時は退院してまだ3日目の事で
「絶対に1週間以内に言うから、それまでは待ってくれ」
と条件を出して何とか納得して貰うことが出来たが。
残りの一週間、どうすればさなちゃんを納得させられるか
一番傷つける事無く別れるにはどうすればいいか
そればかり考えて 結局思い付かなかった。
そんな時にさなちゃんが家にやって来た。
つい、口が滑って華耶と寝た事を喋ってしまう。
飛び出して行った後を追おうかとも思ったが
華耶の言葉が頭をよぎった。
「別れなさい」
…このまま弁解する事も出来ないのか?
いや、言った所で状況は変わらない。
だったらこのまま…
嫌いになられたまま別れるのが一番良いのでは?



