「腹痛くなったからちょっと行ってくらぁ。なあに、有事の際には振り撒きながらでも駆けつけるから。ガハハハハ」

「キッタナイなぁ! いいからゆっくりしてきて下さいよ!」


 いつもの調子で軽口を吐いて、先輩がトイレに走って行った。


「先輩! プールサイドは走っちゃ駄目ですって!」


 真っ黒に日焼けした筋骨隆々の背中が片手を挙げて答える。

 まったく! 子供に示しが付かないじゃないか。


「?」


 朝の予想通りにごった返しているそこを見回して苦笑いしていた俺は、いつもと違う雰囲気を察知した。不自然な水柱が上がっていて、その周りを遠巻きに人が取り囲んでいる。


「た、助けてっ」


 間違いない!


「今行くぞ! 待ってろ!」


 警笛を吹き鳴らし、俺はプールへと身を踊らせた。毎日身体を鍛練し、ライフセーヴィングの勉強も欠かした事は無い。泳ぎだってあの時の実力とは雲泥の差だ。


「俺が必ず助けてやる!」



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「有り難うございました。私ったら、足がツってしまったみたいで……」


 助け出してプールサイドに引き上げた彼女が、漸く落ち着いたのか話し始めた。


「?」