【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

「殿はお偉いに決まっているでしょう?そなた。織田信長さまを知らないのか?」


信長?


そう言えば秀政がちらりとそんな名前を言ったことがあるかもしれないけれど。


そうなのか。


あの人が信長という人だったんだ。


感心したように頷くわたしを、女は呆れたように見返している。


そして。


「殿は何故そなたのようなただの子供を連れてこられたのかのう」

と溜め息混じりに呟くと、

「明日はその小袖を着るように。殿自ら見繕ってくださった物だからの」

と言い置いて、足早に立ち去ってしまった。


「殿、自ら?」


わたしは手にした着物に目を落とした。


白い無地の寝巻と、淡い桜色の小袖。


「姿を見せなかったのは、わたしに着物を選んでいたから……?」


そう思うと急にどきどきしてきて、わたしはいても立ってもいられなくなってきた。


「もう、早く寝よ」


こんな時は寝てしまうに限る。




秀政と。


殿と。


わたしはどちらの側にいたいんだろう。



その夜は結局、あまり眠ることができなかった。