【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

「もう大丈夫か?」


「うん。秀政がいてくれるから、もう平気だ」


「そうか」


秀政はわたしの頭をくしゃくしゃと撫でると、先に立って歩き始めた。


その背中が何となく寂しそうだったけれど。


まだほんわかと温かい自分の背中が心地良くて、そんなことはさして気にならず、わたしは彼の後を追ったのだった。


いつの間にか激しい風雨は峠を越えており、時折吹き戻しの風が雨戸を叩くだけ。


尼さまの部屋の明かりは消えていて物音ひとつせず、わたしたちは早々に立ち去った。


夕餉を召し上がってすぐに、休んでしまわれたようだ。


暗い廊下を今度はわたしの部屋に向かっていると、

「さて、雨風も弱まったし、私は失礼しよう」

と秀政が突然言った。


「え、帰るのか?」


「ああ、尼御前さまも休まれたし、私がここにいても仕方ない。足利の屋敷も気になるし」


彼は本気で帰るつもりのようだ。