【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

以前のわたしならこんな時は一歩も動かずじっとして、ただ嵐が過ぎるのをやり過ごしていた筈だ。


鴨川の河原の、三条大橋の下で、仲間とも呼べない子供達と、東山の木々がまるで大きな物の怪のように揺れる姿におののき、徐々に水嵩を増していく川に怯えていた。


今頃、やはりあの子たちはそうしているんだろうか。


突如として襲ってきたそんな回想を振り落とすように、わたしは頭を振ると、持ち運び用の桶に水を移した。


今、昔のことを思い出しても、あの子たちのことを思っても詮無いことだ。


こうして屋根のあるところで風雨を凌げる自分の幸せをひけらかしているようで嫌だった。


最後の一滴まで水を移した時だった。


視界の隅に何かが写った。


はっとして顔を上げると、

「持とう」

と言いながら手が差し出された。