「一服頂けるかな?」


聞き慣れた声に振り向くと、いつものように優しげに微笑む男がいた。


彼がこの寺に来なくなったのは夏の始め。


あれ程足しげく通って来ていたというのに、ぱったり音沙汰がなくなった。


わたしはそれをなんとなく寂しく思っていたのだ。


いたのだけれど、勿論それを本人に言うつもりはない。


男は茶室に入ると釜の近くまでにじり寄り、また「一服頂けるかな?」と聞いてきた。


わたしはなんだか気恥ずかしくて、

「尼さまに立ててもらえばいいだろう」

と突っぱねるように言ってしまった。


男はそれでも穏やかだった。


「私はお前に立ててほしいのだ」


何故下手なわたしの茶など飲みたいんだろう。


男の真意がわからない。


だいたいがよく分からない男だったけれど。


わたしみたいな人間に、何故これほどまで構うのか。


そこからして分からない。