そのことに気付かず、あたかも悪戯が成功したかのように笑う尼さまは、やはりどこか抜けている。


良く言えば、身分高い人故のおおらかさ なのだろうか。


(まあ尼さまが楽しいならいいけどさ)


客人が来るまで騙されたふりをしていよう。


そう自分に言い聞かせて、わたしは尼さまの部屋を後にした。


その後は課せられた掃除や読み書きの練習に時間を費やし、瞬く間に昼になった。


すると尼さまに、茶室の釜に湯を沸かしておくように言い付けられた。


どうやら茶室で客人を迎えるらしい。


茶の湯のことは一通り尼さまに手ほどきを受けていたけれど、まだまだ不慣れで、勝手のわからないことのほうが多い。


それでもなんとか炭をおこし、釜が温まるまでじっと見守っていた。


その釜がシュンシュンと良い音を立てるようになった頃。


不意に声が掛けられた。