【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

とは言え精進料理。


作るものといえば大抵決まっている。


その朝も粥を炊き、胡麻豆腐を作り、ごぼうを浅漬けにしたものを添えた。


「よし」


一声上げて、膳を手に尼さまの部屋へ向かった。


尼さまの部屋からはいつも良い香の香りがしてくる。


元は身分ある女人だったというから、やはり教養は人並み外れて高いのだろう。


わたしには香の種類など解ろう筈もなく、ただ良い香りだと思うだけだ。


それでもこう言ったことに触れる機会もなかった以前を思えば、遥かにマシになったのだと思う。


「おはようございます」


遠慮がちに声を掛け、障子を開けた。


「おはよう、迦陵」





夏の始め、この人に授けられた名は、極楽にて美しい声で鳴くといわれる鳥から取られたものだった。


迦陵




それが、わたしの名。