【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

まだ明けきらぬ朝。


秋も深まったこの時期は、もうひんやりと冷たい早朝の空気だった。


去年の今頃は、これからの底冷えする寒さをどうやって乗り切るか、そればかりを考えていたけれど。


今は屋根の下。


修業の場である寺だけに火気には乏しかったけれど、冷たい雨雪を凌げるだけで有り難かった。


そう有り難い。


瑣末な出来事ひとつにまで感謝する、そんな暮らしぶりだった。


夏の終わり頃から日課にするように謂われた朝の読経を済ますと、わたしは慎重な手つきで、小さな阿弥陀仏を納めた厨子の扉を閉じた。


この阿弥陀さまは尼さま手ずから彫ってくださったものだ。


今のわたしには一番の宝だった。


もう一度手を合わせ、急いで台所へ向かう。


尼さまの食事を作るのは、わたしの勤めだった。