【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

尼さまは小さく笑うと、

「ならばそなたに相応しい名を考えよう」


そう言って、なにやら楽しげに襖の向こうに消えて行った。


「どんな名前付けられるんだろ」


普段は見ることのない尼さまの浮かれた様子に、わたしは一抹の不安を覚え、呟いた。


「心配せずとも、尼御前さまなら、良い名を付けてくださるだろう」


男は確信に満ちた顔で、そう断言した。


よほど尼さまを信頼しているらしい。


わたしも尼さまに任せたからには、付けられる名に文句を言うつもりはないけれど、それでも、これから一生背負って行かなければならないものだから、何とは無しに祈るような気持ちになっていた。


そんな気持ちのまま障子の向こうに目を移せば、初夏を感じさせる日差しを受け、庭の木々がきらきらと輝いていた。


「綺麗だね……」





この頃のわたしは、こんな小さなことにも生きているのだという実感を得ながら、日々を過ごしていたのだった。