【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

「あら、お邪魔だったかしら?」


笑いを含んだ声に、男は慌てて手を引っ込めた。


「あ、尼御前さま」


男は顔を真っ赤にしている。


心なしかわたしの顔も熱くなったような気がする。


「さあさ、邪魔者は早く退散いたしましょう」


そう言って尼さまは、白湯の入った茶碗をふたつ置いて出て行こうとした。


「尼御前さま、何もございませんから、どうぞおいでください」


男は慌てたようにとりなした。


尼さまはくすくす笑っている。


「尼御前さま……」


「良いではありませぬか。あなたたちは年も近いのですから、仲ようなさればよいので
す」


あくまで尼さまは『ここからは若い者に任せましょう』状態のようだった。


「……出会ってすぐのおなごに、そのような気にはなりませぬ」


男はぼそぼそと呟いた。


「ほんに律儀でいらっしゃる」


ホホホと笑う尼さまをわたしは横目で見ながら、この尼さまはただ清楚で上品なだけではないらしいと思っていた。


案外茶目っ気もあるようだ。


この男、随分尼さまにからかわれているんだろうな。