「お待ちよ」
「え?」
一斉に視線が老女へと集まる。
「ばあさん、何か知ってるのか?」
息子が言うと、老女はかすかに頷きながら、
「あんた、きぬさんと言ったね」
と確認するように訊いた。
「はい、きぬさんです」
「これが、あんたの探してるきぬさんかどうかは分からんが、裏の与兵のとこの前のかみさんがきぬさんと言ったよ、たしか」
「与兵さん、前にもかみさんがいたのかい?」
「ああ……だが病気がちな人でねえ。野良仕事一つ出来やしないとよくお姑があたしんとこに来ちゃ、愚痴を言ってたよ。そうこうするうちに子供を一人産んだんだが、産後の肥立ちが悪かったのかますます弱っちまって。貧しい暮らしなもんだからって、その子を余所に売ったかどうかして、結局きぬさんもそのあとすぐに亡くなってしまったんだよ」
「……」
わたしは言葉なく老女の話を聞いていた。
「へえ、あたしらそんな話、ちっとも知りませんでしたよ。ねえ、あんた」
「そうだろうね。あっこの家はきぬさんのことはなかったことにしたいみたいでね。亡くなってすぐに新しいかみさんが来し、その人はきぬさんと違ってすこぶる元気な人なもんだから。お姑も後家さんをすっかり気に入っちまって……」
「そのおうちはすぐ裏に?」
「ああ、そうだよ。行って見れば、すぐにわかるさ」
「え?」
一斉に視線が老女へと集まる。
「ばあさん、何か知ってるのか?」
息子が言うと、老女はかすかに頷きながら、
「あんた、きぬさんと言ったね」
と確認するように訊いた。
「はい、きぬさんです」
「これが、あんたの探してるきぬさんかどうかは分からんが、裏の与兵のとこの前のかみさんがきぬさんと言ったよ、たしか」
「与兵さん、前にもかみさんがいたのかい?」
「ああ……だが病気がちな人でねえ。野良仕事一つ出来やしないとよくお姑があたしんとこに来ちゃ、愚痴を言ってたよ。そうこうするうちに子供を一人産んだんだが、産後の肥立ちが悪かったのかますます弱っちまって。貧しい暮らしなもんだからって、その子を余所に売ったかどうかして、結局きぬさんもそのあとすぐに亡くなってしまったんだよ」
「……」
わたしは言葉なく老女の話を聞いていた。
「へえ、あたしらそんな話、ちっとも知りませんでしたよ。ねえ、あんた」
「そうだろうね。あっこの家はきぬさんのことはなかったことにしたいみたいでね。亡くなってすぐに新しいかみさんが来し、その人はきぬさんと違ってすこぶる元気な人なもんだから。お姑も後家さんをすっかり気に入っちまって……」
「そのおうちはすぐ裏に?」
「ああ、そうだよ。行って見れば、すぐにわかるさ」

