【戦国恋物語】出会いは突然風のように…

もう一軒だけ訪ねてみよう。


そう思い立ち上がった。


しばらく行った所にあった農家に入ると、若夫婦と老女がいて、いきなり入ってきた市女笠姿のわたしにぎょっとしている。


「あの、突然ごめんなさい。少しお尋ねしたいことがあるんですが、今よろしいですか?」


「ああ、別にかまわんが…」


怪訝そうにしながらも、夫が作業の手を止めた。


「この辺りにきぬさんという人が住んでいないでしょうか?」


夫婦は顔を見合せた。


そして。


「さあ、俺は聞いた事ねえなあ」


「あたしもないね」


やっぱり……。


ここでも返ってきた答えは同じだった。


山科の盆地は狭いようで広いのだ。


そう簡単に見つかるわけない。


「お邪魔しました」


しかし消沈して帰ろうするわたしの背中に、しわがれた声が掛けられた。