親がいた。
それだけの事実で、わたしの存在が色を為した。
ふわふわと宙に浮いているようだった足元が、この時やっと地に着いたような、そんな気持ちだった。
「すがさんのお参りをしますか」
尼さまに言われ、わたしは頷いた。
住職に案内され、無縁仏の葬られている塚へ赴いた。
尼さまが持って来た団子と線香を供えると、住職の読経の中手を合わせた。
ここに、すがさんが……。
場面場面でしか覚えていない婆さま。
でも彼女が養母であったのなら、わたしに掛けてくれた愛情は紛れも無く本物であったのだ。
わたしは手を合わせながら感謝した。
彼女がいてくれたから、今のわたしがある。
素直にそう思えた。
住職にこれからきちんと供養に訪れることを約し寺を出ると、尼さまに「少し出掛けたい」と伝えた。
「山科に行くのですか?」
やはり尼さまは何でもお見通しのようだ。
「すがさんのことが分かったからと言って、生みの親のことまで分かるとは限りませぬぞ」
尼さまは心配そうに眉根を寄せている。

