そう言えば……。

「旦那さんは5年前、ソラを選んで引き取ったんですよね?」

「そうだよ。あの時はソラのほうが重症だと思ったからね。……はい、コーヒーどうぞ」


そう言いながら、旦那さんは、あたしの目の前にいれたてのコーヒーと1冊のスケッチブックを置いた。


「……これは?」

「ソラのものだよ。中を見てやってくれるかな?」

「ソラ……絵を描くんですか?」

「うん。こっちに来てから毎日欠かさず描いているから、100冊はあるかな。しかも決して捨てようとしないもんだから、うちの中はスケッチブックだらけだよ」


スポーツも、勉強も、もちろん絵だって。

ソラは小さな頃から比較的何でも器用にこなしたけれど、とりわけ何かひとつのことにこだわることはなかった。

高校でも帰宅部だったし。

そんなソラに絵を描く趣味があったなんて、意外だ。


だけど、あたしはそのスケッチブックの1ページ目を開いて、更に驚かされることになる。


「これって……」

「分かるよね? 全部、美夕ちゃんだよ」


スケッチブックは、そのほとんどのページが鉛筆で描かれた人物画で埋まっていた。

そして、そこに描かれてあったのは、全て同じ人物……あたしだった。


しかも、いくらページをめくっても、めくっても、



スケッチブックの中のあたしは泣いていた。