「痛っ」

 今朝、美和が寝床から上半身を起こすと、どうにもこうにも頭が重かった。ビクンと鼓動に合わせて痛みが走る。背中から肩に掛けて寒気がする。

『そんなに飲み過ぎたかな……』

 ビールの空き缶が、無造作に転がっている。

 美和は寝癖のついた後頭部をガシガシと掻いた。肘が触れたのか、フォトスタンドがパタンと落ちる。

 体温計を脇に挟むと、一つ溜め息を付き、美和は頼りないマナコで待った。そして、余った手を頬に当てる。

 肌の艶もイマイチだ。まだ若い女性だという自覚はあるが、胸が小さく、男を惹き付ける甘い香りなど未塵もない。

 電子音が聞き、体温計を確認する。脇の臭いを引き連れてきたそれは、37.8度を示していた。

 ──すみません。朝起きたら熱がありまして。それで今日、お休みさせて貰いたくて……。

 勤め先に断りを入れ、近くの診療所に行くことに決めた。一日中寝込むより、今日行動するのだ。

 診療所が開く時間に合わせて準備を始める。頭の痛みを堪え、トーストを頬張り、洗面所で歯を磨き顔を整える。

 通常出勤とあまり変わらない時刻だった。しかし、その方が体が動く。


 ──美和の行き付けの診療所というのは、──いや、掛った事がある訳でもなく、ただそこしか知らないだけなのだが、最寄り駅の沿線にある商店街に入り、その並びの銭湯の隣にあった。

 ほんの少し躊躇ったが、結局、原動機付き自転車に股がり、家を出る。ヘルメットの内側でズキンと頭が膨張するようで、ギシギシと軋む。


 駅の駐輪場に止め、そこから歩く。診療所が開く五分前には、無事到着することが出来た。